いよいよ加害者側と示談交渉するのですが、損害額の算定は済んでいるでしょうか?

何の準備もなく加害者側と示談交渉するのは、相手の思う通りに示談が進んで、損害賠償額が大幅に減らされてしまう可能性もあります。

示談金は数千万円に達することもあり、多くの人にとっては大金なので、金額を聞くとついつい話に乗ってしまいそうになります。

しかし、本当にその示談金で良いのか、損害賠償はきちんとされているのか確認してから示談に応じるようにしましょう。

また、示談金は自由に金額を決めることができるとはいえ、加害者側はできるだけ低い金額にしようとしますから、自分の基準とする金額を明確に持つことが大切です。

とはいえ、損害以上の不当な金額では相手も承知するはずがなく、妥当な範囲で交渉します。

誰と示談交渉するのか?

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被害者が示談交渉する相手は、加害者、加害者の代理人、加害者が加入する任意保険会社のいずれかで、加害者が任意保険に加入していれば、ほとんどの場合は保険会社が相手です。

任意保険には示談交渉サービスが付いており、被害者との示談は保険会社で対応します。

もし、加害者が任意保険に加入していなければ、加害者や加害者の代理人に直接請求することも珍しいことではなく、加害者を頼らずに被害者が自賠責保険に請求する場合もあります。

このページでは、主に加害者の保険会社との示談交渉について説明しているので、被害者から自賠責保険への請求は、「自賠責保険を請求する」で確認してください。

ところで、当事者でもない保険会社が示談交渉するのは、おかしいと思うでしょうか?

保険会社が被害者と示談交渉することは、経緯があって認められています。

ただし、保険会社が示談交渉できるのは、加入者が損害賠償責任を負っているときです。

これは、被害者の保険会社に示談交渉を依頼する場合でも同じで、加害者に損害賠償しなければならない状態(被害者に過失がある事故)でなければ、保険会社は示談交渉できません。

この点については、「保険会社が示談交渉できる理由」で詳しく説明しているので、疑問に思っているのなら参考にしてください。

また、誰が示談の相手でも、将来のことも考えて結論を出すのが正しい示談です。

一度決まったら取り消すことができない示談は、和解契約の一種とされて示談成立後の再交渉が原則的に認められておらず、後悔することは多いからです。

自分にも過失があると、ついつい保険会社に示談交渉を任せてしまいがちですが、最低でも損害額の算定や過失割合については、妥当かどうか検討してみましょう。

自分の保険会社が交渉した結果だからといって、無条件で鵜呑みにするのは禁物です。

示談交渉に必要な書類

示談交渉は、交通事故の損害に対して、どのくらいの賠償金を支払うかを話し合うので、損害がどのくらいであるか提示するのは、損害を受けた被害者側の責任です。

請求もない損害を加害者側が支払うことはなく、根拠は書面による提出を要します。

したがって、示談交渉では損害賠償請求の基礎となる証明書を用意しなくてはなりません。

損害額の算定」で説明の通り、損害には積極損害、消極損害、精神的損害(慰謝料)の3種類あり、積極損害は領収書で、消極損害は収入証明で証明します。

・積極損害を証明する書類

診断書、診療報酬明細書、治療費・入院費・交通費等の領収書など

・消極損害を証明する書類

源泉徴収票、確定申告書、休業損害証明書(保険会社の様式)など

・その他の書類

交通事故証明書(自動車安全運転センター発行)

精神的損害である慰謝料は、事前に自分で算定している金額と、保険会社の提示を比べて交渉しますし、過失割合も交渉によって決まります。

慰謝料の算定基準は幅広いですし、過失割合の大小は損害賠償額に大きく影響します。

過失割合が1割増えると、損害賠償額も1割減るのですから、時には数百万円の差が付きます。

保険会社の提示に屈することのないように、粘り強く交渉しましょう。

示談交渉は絶対に急ぐべきではない

示談交渉を始めるタイミングは、ケガが完治してからでも遅くはありません。

むしろ、ケガが完治せず損害額が確定していない段階での示談は非常に危険です。

特に、一括払い制度で加害者の任意保険会社が対応していると、治療費の打ち切りを迫ってくることがあり、プレッシャーに負けて示談してしまうことがあります。

しかし、治療費が打ち切られてもケガの治療は自費でも行うべきで、医師が事故で受けたケガのために必要と判断して行った治療は、損害賠償請求を妨げられるものではありません。

加害者が刑事罰の対象になっていると、示談が成立していることで刑が軽くなる、執行猶予付きの判決になる、不起訴になるといった効果があるので、加害者側は示談を急ごうとします。

目の前の示談金に釣られて、加害者側の戦略には乗らないようにしましょう。

もう1つ注意点があり、後遺症が残りそうなときは、絶対に示談を急がないことです。

示談後は一切の請求をしないと誓約するので、示談終了後に後遺症が明らかになったときは、請求できなくなる可能性もあります(示談後の後遺症について請求を認めた判例もあります)。

さらに悪質なのは、保険会社は後遺障害等級(後遺症による賠償金が支払われる基準)が認定されやすい6ヶ月の治療期間を見越して、その前に治療打ち切りを通知してきます。

被害者を心理的に追い込み、後遺障害等級が認定される前に示談をして、後遺症による損害賠償請求を逃れようとする戦略です。

こうした戦略にハマらないように、示談交渉はその時期も大切だと認識しましょう。

示談交渉の最初は慎重に

迂闊に保険会社の人間と直接話すと、その日のうちに説得されて示談に応じてしまうかもしれないので、最初は書面のやり取りから始めるのも1つの方法です。

また、不当に低い金額しか応じてもらえないときは、裁判も視野に入れて交渉するべきです。

保険会社は、被害者の受けた損害や苦痛など何も考慮せず、最低限のラインで事務的に処理しようとしてきますから、あまりにも納得できなければ弁護士への依頼を検討しましょう。

多くの場合は、弁護士に支払う報酬を差し引いても、増額される可能性が高くなります。

なお、勘違いしやすいですが、保険会社は加害者の代わりにお金を払う存在でしかないため、保険会社の言い分に腹を立てても仕方がなく、誠実さを求める対象でもありません。