加害者や加害者の保険会社(加害者側)と示談交渉をする前に、損害額を知っておくことは、交通事故の示談交渉において欠かせない手順の1つです。

損害額を見積もっておくと、保険会社から提示のある損害賠償額と比較して、妥当かどうか判断することができ、示談を了承するかどうかの判断にできます。

事故は加害者による不法行為ですが、だからといって無制限な請求は許されません。

何が損害として認められるのか、何が請求できるのかを知らないと損害額の請求はできないので、先に交通事故の損害について解説します。

人身事故による3つの損害

人身事故の被害者は、事故で受けたケガの治療が不可欠で、治療費が必ず発生します。

不幸にも亡くなってしまえば、葬儀費用もかかりますし、お墓も建てるでしょう。

このように、事故によって支払いを余儀なくされた損害を「積極損害」と呼びます。

積極損害の特徴は、何らかの名目で支払った実費である点ですが、将来の支払いが明らかなら、将来の分も支払われる可能性があります。

また、仕事をしている人が事故でケガをすると、治療中は仕事ができず収入が減る、または全く得られない状況が続くので、被害者は損害を受けています。

後遺症が残る場合もあり、後遺症で労働能力が低下すると、将来も収入が減ることになります。

ましてや亡くなると、将来の給料等が全て失われ、遺族の生活に大きな影響を与えます。

被害者が実際に支払ってはいなくても、被害者が失った(または将来受け取るはずだった)損害を「消極損害」と呼び、事故時の被害者の収入から算出されます。

消極損害は、治療中の休業損害と将来受け取るはずだった逸失利益に分かれます。

もう1つ、人身事故の損害には「精神的損害」と呼ばれる慰謝料も発生し、被害者は加害者に対して精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求できます。

事故の種類 損害の種類 具体例
傷害事故 積極損害 治療費、入院費、通院交通費、付添看護費、入院雑費
消極損害 休業損害、逸失利益(後遺症が残った場合)
精神的損害 慰謝料
死亡事故 積極損害 葬儀費用、死亡するまでの治療費
消極損害 逸失利益
精神的損害 慰謝料

積極損害、消極損害、精神的損害の3つの損害を全て合計した金額が、交通事故による被害者の損害額となり、損害額を加害者に対して請求できます。

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交通事故の損害は、傷害事故、死亡事故、後遺障害でそれぞれ全く違いますし、死亡なら重傷から死亡する場合と、即死の場合があります。

※後遺障害とは後遺症のうち、後遺障害等級が認定された症状のことです。

そのため、傷害による損害は、完治、死亡、後遺障害のいずれかに発展することになって、交通事故の損害は、次のように時には複合的に算出されます。

・傷害から完治:傷害による損害
・傷害から死亡:傷害による損害+死亡による損害
・傷害から後遺障害:傷害による損害+後遺障害による損害
・即死:死亡による損害

傷害を経由する死亡と後遺障害は、死亡または後遺障害等級の認定を境にして、傷害による損害とは別の損害として扱われ、合計した損害を損害賠償額とします。

損害額の算定方法も3種類ある

損害の種類を把握したところで、いよいよ損害額の算定に移りますが、損害額の算定方法にも種類があり、算定基準が全く異なります。

1.自賠責保険基準
2.任意保険基準
3.弁護士会基準

それぞれの算定基準の中で、最も低額なのは自賠責保険基準、最も高額なのは弁護士会基準で、裁判を起こしたときには弁護士会基準で請求することになります。

示談の段階で弁護士会基準を持ち出しても、多くは減額交渉になったり、任意保険会社が承知せずに争いになったりしてしまいますが、スタート地点としては弁護士会基準で考えます。

目安としては、自賠責保険基準と弁護士会基準の両方を知っておいた方が役に立ちますので、自賠責保険基準については「自賠責保険の支払い基準」を、弁護士会基準については傷害事故の損害算定死亡事故の損害算定後遺障害の損害算定を別々に解説しています。

なお、任意保険基準は、各任意保険会社が独自に基準を定めており、公開もされていません。

したがって、保険会社の提示を待つのですが、大抵は自賠責保険基準よりも少し多い程度でしかなく、場合によっては自賠責保険基準で示談をしてくる保険会社もあります。

任意保険会社の目的は、できるだけ低い金額と決まっているので、負けないようにしましょう。

損害賠償請求額は過失相殺によって減額される

損害額を算定しても、そのまま全額を加害者側に請求できるとは限らず、被害者にも過失がある場合は、自らの過失分については自己負担しなければなりません。

お互いの過失割合によって、損害額を減額することを「過失相殺」と呼び、特に自動車同士の交通事故では、過失相殺による損害賠償請求額の減額は日常的にあることです。

任意保険会社の提示額が予想以上に低いと感じたら、自分で見積もった損害額が過失相殺を考慮していないかもしれませんし、本当に任意保険会社が低い金額を提示しているのでしょう。

過失相殺については、「過失割合・過失相殺」で別にまとめています。

過失相殺の仕組みは、交通事故の損害賠償で重要なので、必ず確認しておきたいポイントです。

ただし、過失割合は示談で決まる性質があり、示談前に過失相殺を考慮しても、示談で決まった過失割合と異なれば、最終的な損害賠償額も異なります。

そのため、試算するなら仮の過失割合だということを忘れないでください。

損益相殺による減額もある

例えば、交通事故のケガを健康保険で治療すると、10割の損害額(治療費)に対して、被害者の窓口負担は3割で残りの7割は健康保険から支払われます。

健康保険が負担した7割は、加害者の代わりに支払ってくれるのではなく、健康保険が後から加害者に請求するので加害者が負担します。

そして、被害者の損害賠償請求は、10割の損害額ではなく、窓口負担した3割になります。

もし加害者が10割の損害を賠償してしまうと、健康保険と二重払いになって、被害者は余分に賠償を受けることになるからです。

被害者:加害者から10割受け取り-窓口で3割負担=7割の受け取り
加害者:被害者に10割支払い+健康保険に7割支払い=17割の支払い

被害者の治療は終わっているのですから、治療費以外の7割を受け取るのは、被害者が受けた損害に対する賠償ではなく不当な利益です。

そこで、被害者が加害者側以外から利益(例では健康保険給付の7割)を受けた場合は、その利益を損害額から減額する「損益相殺」がされます。

損益相殺については別のページで解説しているので「損益相殺」をご覧ください。

加害者側への最終的な損害賠償請求額は、過失相殺と損益相殺を考慮した金額になり、算定した損害額とは大きく変わる場合がありますので、正しく算出しましょう。