健康保険を利用する

交通事故によるケガで病院を訪れると、治療の受付の際、または治療が終わって会計に支払いをするときに「交通事故は健康保険が使えない」と言われることがあります。

交通事故でも治療で健康保険を使うことに制限はないのですが、病院がそう言うならと鵜呑みにして、健康保険が使えない(自由診療)と思い込む人も多いでしょう。

本当に病院のスタッフがそう信じていれば悪意はなくても、意図的にそう言って(指示されて)治療費を稼ごうとしているのなら見逃せません。

病院が加害者の保険会社に直接請求してくれる場合はともかく、被害者の立て替え払いになるケースでは、自由診療の負担が大きいからです。

・被害者に過失がある場合
・加害者が保険未加入の場合
・治療費の立て替え払いに困る場合

このような場合は、健康保険を使って治療した方が自己負担を圧縮できます。

数回の通院で済む軽いケガなら大丈夫ですが、入院や退院後の通院が長期化するようなら、健康保険を使うことも考えましょう。

事故の被害を受けたのに、自分の健康保険で治すのは妙な気分ですが、自己負担になったときには、健康保険の保険料どころの騒ぎではありません。

保険診療と自由診療の違い

医療機関は、患者が希望しない限り、患者の治療方法や投薬を医師が決めていきます。

このとき、保険診療では診療内容に細かい法的な制限があって、制限の範囲内で治療を受けます。

これは、誰もが加入する健康保険において、平等な治療をするためで仕方がありません。

一方の自由診療では、医師の判断で治療方法を決められ、保険適用外の薬も使えます。

新しい治療や薬が保険診療になるまでは時間がかかり、保険の効かない治療や薬があるのは周知の事実ですが、交通事故で保険適用外の治療や薬を必要とすることは稀でしょう。

もう1つ、こちらの方が事故の被害者にとっては大事で、両者は医療費が違います。

医療費(診療報酬)は、それぞれの医療行為に応じた点数に、保険診療なら1点を10円として計算され、合計金額の3割(割合は人によって異なる)が患者負担になります。
残りは健康保険から病院に支払われるのが、健康保険の制度です。

ところが、自由診療の場合には医療費の基準が決められておらず、1点を20円でも50円でも、医療機関の判断で請求できます。

病院も慈善事業ではないので、保険診療よりも安い自由診療など考えられません。

患者には自由診療で治療を受けさせ、病院が決めた高い医療費を支払ってもらう方が、病院の経営としては好ましく、わざと保険診療を断る例もあるようです。

保険診療を断られたら

保険医療機関(保険証を出して受診できる病院)は、患者が保険診療を望めば拒めないはずで、少なくとも自由診療・保険診療に関係なく、正当な事由がなければ医師法で診療を拒めません。

つまり、保険診療を理由に診療自体を拒めるとしたら、健康保険を使うことが診療を拒む正当な事由に該当しなければなりませんが、これは立証できないでしょう。

現在においても、万人がアクセスできるホームページ上で、交通事故は自由診療1点20円と公言している病院もあります。

もっとも、分野によっては自由診療を専門にしている病院もあるので、もし保険医療機関ではない病院に行って、健康保険を使わせろと言っているのなら筋違いです。

交通事故で保険診療が可能であることは、旧厚生省の通達や判例から明らかですから、本来は争うことすらばかばかしい話で、全く無駄な努力をすることになります。

そのような病院は、治療についても営利目的で過剰にされるおそれがあるので、さっさと変えてしまった方が精神衛生上も良いでしょう。

仮に、保険診療で診療報酬が半分に減るとしても、患者を逃すとゼロなので病院は損をしそうですが、患者の2人に1人が自由診療を受け入れれば間に合ってしまう算段です。

とりあえず治療を受けたい患者の中には、しぶしぶ自由診療をしてしまう人も多くいます。

保険を使える治療や薬なら、患者は保険を使いたければ保険診療、使いたくなければ自由診療にすることもできます。

何にしても、保険診療をするかどうかは患者側の選択で、病院や医師ではありません。

被害者に過失がある場合の事例

健康保険を使った場合と、自由診療で治療を受けた場合に、どのくらい治療費に差が出るのか事例手確認してみましょう。被害者が治療費を立て替え払いする前提です。

被害者の過失20%、健康保険3割負担、加害者は自賠責保険、任意保険両方加入、 加害者の損害は無いものとする
項目 健康保険を利用 自由診療
治療費
(自由診療は1点20円で計算)
200万円 400万円
治療費(被害者支払い分)
慰謝料等
60万円
100万円
400万円
100万円
損害額
=上段の合計
160万円 500万円
過失割合負担分
=損害額の20%
32万円
=160万円の20%
100万円
=500万円 の20%
損害賠償額
=損害額から過失割合
負担分を差し引く
128万円
=160万円-32万円
400万円
=500万円-100万円
実際に受け取った分
=損害賠償額から治療費
を差し引く
68万円
=128万円-60万円
0万円
=400万円-400万円

最も大きな違いは被害者の支払いで、自由診療で400万円の治療費が、保険診療の3割負担では60万円まで減っています。

また、損害額が確定してから過失分を考慮すると、保険診療では68万円受け取れますが、自由診療では差し引き0円になっています。

慰謝料が100万円あるのに、自由診療での治療費が高すぎて、ちょうど慰謝料が過失分で失われている形ですが、自分にも過失がある場合は、高い治療費が跳ね返ってくると考えましょう。

なお、事例では自由診療を1点20円として計算していますが、医師会と損保業界において協議がされ、1点12円の労災保険と同等の基準が定められました。

ところが、この基準には強制力がなく、依然として高い自由診療で治療するケースがみられます。

早い話が、せっかく飛び込んできた自由診療の儲け話なのに、わざわざ安い保険診療をする必要はないと考える病院が、今も存在しているということです。

過失がある場合は、自己負担になる可能性を十分考えて、診療方法を選ぶ慎重さが必要です。

加害者が保険未加入の場合

任意保険に未加入の人は1割程度存在し、その理由は保険料がもったいないと思っているか、任意保険の加入を断られている場合です。

いずれにしても、加害者として十分に賠償してくれると信じられないので、確実に賠償を受けられる自賠責保険に頼るしかありません。

しかし、自賠責保険ではケガの場合の限度額が120万円と非常に少ないので、高い自由診療で使い切ってしまうと、加害者に直接請求するしか方法がなくなります。

加害者が自費で支払ってくれるなら、いくら治療費が高くても問題ないですが、当然ながら任意保険に未加入の加害者には期待できないでしょう。

例えば、保険診療の治療費が50万円かかったとすれば、限度枠は残り70万円です。

自由診療では倍の100万円かかったとすれば、限度枠が残り20万円になります。

ここで、休業損害が30万円、慰謝料が50万円、加害者には全く支払い能力がないとします。

保険診療では70万円を受け取って、10万円は諦めるしかないですが、自由診療では20万円しか受け取れず、60万円を諦めることになります。

つまり、加害者が任意保険に未加入で資力もないときは、実質的に自賠責保険の限度額を超えられない可能性が高いことを踏まえ、治療費を抑えて他の損害を確実に受けるのです。

なお、加害者が自賠責保険にも入っていなければ、加害者が負担すべき賠償額は政府保障事業が弁済してくれますが、限度額は自賠責保険と同じ基準です。

言いかえれば、加害者の自賠責保険の加入に関係なく、自賠責保険分は賠償を受けられますが、それ以上は望めないので、治療費を抑えなくてはなりません。

さらに、政府保障事業では、健康保険の使用を前提とした支払い基準であるため、なおさら健康保険を使用して治療を受ける必要があります。

治療費の立て替え払いに困る場合

交通事故の被害者が治療を受けるとき、誰が治療費を負担するのかは何パターンかあります。

1.被害者が立て替えて後から加害者側に請求する
2.加害者の保険会社へ病院が請求する
3.被害者の保険会社へ病院が請求する

どれでも選べるというわけではなく、治療をした病院は治療を受けた患者に請求するのが当然なので、原則的には被害者が治療費を立て替え払いします。

加害者の保険会社へ病院が請求するのは、一括払い制度を利用して、加害者の保険会社が窓口になっている場合ですが、病院によっては対応してもらえないかもしれません。

また、治療費の支払いが加害者の保険会社に握られるので、ある程度を境にして治療費を打ち切ると言ってくる場合があります。

被害者の保険会社でも病院への対応が可能なのは、人身傷害保険に加入している場合です。

人身傷害保険は被害者の過失割合に関係なく、保険金額の範囲内で補償するため、加害者の保険会社と同じように窓口になってもらえます。

これらのパターンのうち、被害者が立て替える場合においては、短期的に多くの治療費負担を余儀なくされ、しかも入通院によって収入の減額があると大変でしょう。

治療費は実費で賠償されるので、立て替え払いが多くても少なくても結果は同じですから、できるだけ健康保険を使うべきです。

健康保険を使うときは手続きが必要

交通事故で健康保険を使うには、保険を使った治療が、他人の行為によるケガであることを届け出る必要があります。

届出の名称や書式は保険者(協会けんぽや自治体など)によって異なりますが、「第三者行為による傷病届」といった「第三者」と「行為」と付くのが特徴です。

この届出(以下、第三者行為の届出とします)の意味は、事故の加害者や自賠責保険や任意保険の保険会社を知らせることで、健康保険から加害者側に請求するためにあります。

病院の窓口で被害者が3割を支払い、残りの7割は健康保険が病院に支払い、第三者行為の届出にしたがって7割を加害者側から回収します。

勘違いしやすいのは、第三者行為の届出がされないと健康保険が使えないと思われている点です。

第三者行為の届出には書類の提出があって時間がかかるので、事前連絡だけして治療後に提出することが認められており、さらに言えば、重傷時や夜間などで事前連絡が不可能な状態なら、結局は事後連絡になります。

病院に自由診療だと言われても、第三者行為の届出をすると伝えて、保険診療を求めましょう。

第三者行為の届出は添付書類を必要とし、概ね次のような書類です。

保険者によって必要とされる書類は異なるので、必ず確認してください。

・交通事故証明書
・加害者の自賠責保険証明書(写し)
・事故発生状況報告書
・念書(被害者と加害者)
・示談書(示談済みであれば)
・同意書(個人情報について)など必要書類

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