示談交渉がまとまらないと、それ以上いくら加害者に請求しても応じてくれませんし、保険会社も示談なしで損害賠償金を支払ってくれません。

そこで、裁判所に関与してもらって、支払ってもらうようにするのが調停や裁判(訴訟)です。

気を付けたいのは、調停や裁判をしたからといって、絶対に損害賠償金の支払いを受けられるとは限らず、元々支払い能力のない加害者であれば、どうしようもありません。

裁判所から支払い命令があっても、お金の無いところからは支払えないからです。

相手が保険会社なら、裁判所命令で支払いますので、加害者が相手のときには、調停や裁判の実効性についても検討が必要です。

事前に収入を調査しておかないと、無駄な調停や裁判になりかねないので注意しましょう。

解決手段 メリット デメリット
調停 費用が低額、短期間で決着 相手の参加、合意が必要
裁判に比べ手続きが簡単
調停調書は判決と同様の効力
裁判 確実に紛争を解決できる ・費用が掛かる
・判決が下りるまで時間が掛かる
公平な解決が期待できる
判決に絶対的な効力がある

調停による解決

調停は簡易裁判所で開かれ、申立て(申込みのようなものです)をすることで利用できます。

調停の申立てをすると、加害者と被害者が指定された日に裁判所へ呼び出されます。

調停主任(裁判官)と調停委員が調停を担当し、実質的には被害者と調停委員、加害者と調停委員が話して解決への道を探ります。

調停で加害者と被害者を同席させても、大抵は言い争いになるだけなので、話が大筋でまとまって争いがなくなるまでは、別席で行われるのが基本です。

調停で話がまとまる(これを調停の成立と言います)と、双方が合意した内容を記載した、調停調書と呼ばれる書類が作られます。

この調停調書が作成されることで、調停調書は確定判決と同じ効力を持つのが重要です。

確定判決と同じ効力ですから、調停調書の内容は必ず守らなくてはならず、加害者から支払いがされないと、被害者は調停調書により強制執行の申立てが可能になります。

裁判による解決

専門用語としての裁判は、裁判所がする判断そのものを意味しますが、裁判と言えば一般的には訴訟のことを意味するので、ここでは裁判=訴訟の意味で解説していきます。

裁判は訴状や証拠の提出から口頭弁論を経て、判決を受けるための手続きです。

被害者だけでも可能ですが、弁護士に相談・依頼することをお勧めします。

判決が出て加害者側が上訴(控訴・上告)しなければ確定して、加害者は裁判所に命じられた支払いに応じなくてはなりません。

支払いに応じないときは、調停が成立した場合と同じく強制執行が可能です。

実際の裁判では、判決が出される前に裁判所が和解を勧めることも少なくありません。

裁判所の示す和解案は、基本的に判決と同内容で、和解に合意できなくても判決になります。

裁判をしたのに和解することに意味がないように思えますが、裁判所でする和解では、和解調書が作られて確定判決と同じ効力を持つため、和解した方が手続きは早く済みます。

なお、請求額が140万円以下なら簡易裁判所に、140万円を超える場合は地方裁判所に訴えを提起する(訴状を提出する)ことで裁判は始まります。

また、請求額が60万円以下のときは、少額訴訟といって1回の審理だけで終わる裁判もあるので、該当するようなら早く判決を得られて便利です。

その他の解決方法

調停や裁判以外でも、交通事故紛争処理センターで和解の斡旋をしてもらうことが可能です。

この場合、相手方は加害者が加入する保険会社で、費用も無料で行っています。

交通事故紛争処理センターへの申立ては、被害者本人が原則で、被害者が亡くなったときは遺族によって申し立てられます。

選任の弁護士が担当するため、交通事故紛争処理センターの利用では弁護士費用もかかりません。

このように、費用をかけずに交通事故の損害賠償を争うことができる性質から、被害者にとっては利便性が高く、混雑しているのが実情です。

また、交通事故紛争処理センターによる和解の斡旋は、調停や裁判が既に開始されていると利用できませんが、予約をしてから調停や裁判を始めることは許されています。

調停の成立や判決による強制執行

調停の成立、または確定判決後も加害者が損害賠償金を支払わないときは、調停調書や判決の正本を利用して、強制的に回収する強制執行ができます。

強制執行では、裁判所が差押命令を出し、加害者の財産や給料などから回収します。

流れとしては、最初に加害者の住所地を管轄する地方裁判所で、債権差押命令を申し立てます。

裁判所は申立てを認めると、差押命令を加害者と第三債務者に送達します。

ここで、第三債務者という言葉が日常的に使用されないため戸惑うかもしれません。

第三債務者とは、例えば加害者の給料を差し押さえるなら、給料を支払う勤務先が該当しますし、加害者の預金を差し押さえるなら、金融機関が該当します。

つまり、第三債務者から加害者に支払われるべき金銭を凍結し、債権差押命令を申し立てた被害者に支払うのが、強制執行の効果です。

なお、給料の場合には、全額を差し押さえることができない決まりになっています。

これは、全額を差し押さえると、加害者が生活すらできなくなってしまうからです。